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【*】

 23になるまでに得てきたものはなんだろう。
 その数字に意味はないけれど。
 23になるまでに失ったものはなんだろう。
 あるいは今の僕に、何か意味はあるのだろうか。
 
 ただ光陰は矢の如く、日々は流れた。
 多くのものを知らないうちに失ったように思う。
 確信としてあるわずかな何かでさえ、手の中でおぼろげだった。

 それでも、僕は行かなければならない。
 何かを見捨て、
 あてどなく続く、不確かなこの道を。

   [Mistake ―― Words that we couldn’t say.]

   【3月10日】4年生 自室

 兎にも角にも、徹頭徹尾、言語道断に頭の中が真っ白になった。
 椅子に座っていた腰から力が抜け、足の爪先からは見る見るうちに血が引いていき、寒さを感じた。
 冗談じゃない。瞬きを二、三度したあと、不規則な動悸を鎮めようと深呼吸をする。
 机の上の携帯を取り、待ち受け画面を開こうとした拍子に手からすべり落とした。
 そうだ、ひとまず落ち着こう。今の俺はどうかしている。
 まるで、まるであれだ、ほら。
 ベタなマンガのシチュエーションじゃないんだから。
「まー、しかし。なんだな、これは。ぜんぜん笑えないじゃないか」
 改めて口にするまでもなく、しくじった、しでかした、という重たい感触が体を押しつぶそうとする。
 拾い上げた携帯の着信履歴から、誰と気にせず番号を呼び出して通話ボタンを押した。指先の感覚がイマイチ不確かだった。
 あー、うほん。うー、えー、あー。あー、えー、いー、うー、えー、おー、あー、
 呼び出し音が切れた。がちゃがちゃと向こうで電話を取る音がする。
『――はーい、もしもし?』
「あ? 誰だ、お前」
 はあ? 起き抜けにいきなり電話かけてきたのアンタでしょ。何いってんのよ、切るわよ。
 鼻にかかったおもちゃのように高い声が眠たげだった。履歴を見る。
 高野みちる。チルチルミチルのミチル。
 ああ。タカノか。
 一つ深呼吸。
「あー、タカノか。いや、俺だけど」
 わかるわよ、トキオでしょ。眠たげな声が一つ欠伸をしたあとで寝返りを打った。まだベッドの上だったらしい。いや、そんなことはどうでも良かった。
「まだ寝てたのか、お前」
 部屋の時計を見上げる。正午を回ったころだった。
『あー、うるさいね、頭に響く…』
 ケホ、ケホと小さく咳き込んだあと、また唸るような声と、布団を跳ね除ける音がした。
『ノドとアタマが痛い』
 そう答えたタカノの声はいつもより弱々しく、不覚にもいつもより可愛いと思った。
「カゼか?」
『んー、なんか昨日あのあと部屋に帰ってから急に寒気がして』
 じゃあ、まあカゼ引いたんだろうな。サイアクじゃん、二日酔いと一緒にカゼがくるとか。早めにあがればよかったんだよ、わざわざ付き合う必要なんてなかったんだから。
『るっさい…。んで、なに? ようやっとウチの悩みのタネの脚本家様が最後のシーンを書き上げてくれたから、わざわざ演出のアタシに電話くれたわけ?』
「いや、そんなのどうだっていいだろ」
『良くないわよ、おかげで稽古場のフンイキそわそわしてるし、照明とか音響からも早くしろって、釘刺されてるんだから』
「ああ、うん。それはまた別に申し訳ないというか、面目ないというか、急ぎ完成させたい気持ちもやぶさかではないんだが、それはそれでおいといてというか、なんだ? 学生の本分も大事だよねというか」
『なによ。早口でまくし立てて、なんかあったの?』
「いや、それがだなあ…」
 一息間を置いた。それはごくごく自然な間だった。
 パソコンの画面を睨み付けながら、改めて自分にいい聞かせるように口にした。
「ないんだよね、俺の番号」
『…はあ? 意味がわかんない』
「だから、ねーんだよ」
 マウスを操作、右クリックでメニュー表示、“最新の情報に更新(E)”をクリック。
 表示されていたAdobeのモニターが更新されるが、そこにはやはり映し出されない。
 卒業者発表の一覧に表示されない、俺の学籍番号。
「5年生、になるっぽい、俺…」
 数秒後、耳をつんざくような驚嘆の声が携帯のスピーカーの向こうでした。
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04.16 (Mon) 00:00 [ mistake ] CM0. TB0. TOP▲
  
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